人工股関節・人工膝関節をお考えの方へ
人工股関節置換術をすすめられた方へ
変形性股関節症による股関節の痛み、動きにくさ、歩きにくくなる症状などに対し、薬の処方では効果がないため、人工股関節置換術をすすめられることがあります。あるいはそのような状態でも逆に手術をあまり勧められないということもあるかもしれません。
人工股関節置換術はこの20年で飛躍的に進化しております。その進化は、人工関節の素材や形状、加工技術などの企業努力によるものや、数多くの研究、学会発表によってもたらされた手術方法、麻酔方法、合併症対策、術後ケアなどです。わかりやすいのは、以前は術後1~3週間はベットに寝ていなければなりませんでしたが、現在は翌日から車椅子に乗り、2日から1週間で歩行訓練が始まります。これはデーターや経験によって裏付けられた医療提供側の自信の表れなのです。
さて、人工股関節置換術が必要になるのは、変形性股関節症、大腿骨頭壊死症、関節リウマチなどですが、疾患それぞれについても関節が破壊される速度は違いますし、その進行過程における痛みの強い時期も様々です。 X線上まだ初期だから手術しなくていいとか、末期でも痛みが少ないから手術したくないとか、そういうものではないと思います。
股関節が機能を果たすには、動くこと、立てること、そして痛みがないことがその重要な要素になります。そのいずれかが損なわれても日常生活動作には影響が出てきてしまいます。リハビリテーションによる関節可動域訓練や筋力訓練、鎮痛剤による薬物療法はこれらを改善する方法として用いられます。かといってそれらだけに頼っていては、筋力の低下や関節可動域の制限、関節可動域の制限や脚が短くなることからくる背骨の変形など、手術のいいタイミングを逸してしまい、満足のいく結果が得られないことがあります。
手術を実施している病院で執刀医は、手術と術後患者さんの状態把握、合併症に対する治療などの病棟業務、そして病状説明、さらに外来においては、退院された方たちのアフターケアから、手術を受ける方たちの手術説明があります。このため手術を受けるか受けないかグレーゾーンの方たちの、手術に至るまでの経過観察はよくて3か月に1回程度の頻度となってしまいます。こうしたことからほかの病院へ変えてしまったり、通院をやめてしまうこともあるかもしれません。
当院では、わたくし自身のこうした経験から、外来通院での保存療法およびX線での経過観察を行い、現在どのような状況で、今後予想される病状推移を伝え、必要に応じ適切なタイミングで連携する病院へ紹介いたします。
人工膝関節置換術をお考えのかたへ
2021年7月に日本人の平均寿命の公表があり、去年の時点で女性が87.74歳 男性は81.64歳でありました。平均寿命とは0歳時点で何歳まで生きられるかを予測したものです。そして人工膝関節置換術を受けようかと迷っている方たちが何歳まで生きるかという平均余命は次のようになります。
65歳 男性は84歳、 女性は89歳
75歳 男性は86.5歳、女性は90.5歳
85歳 男性は91歳、 女性は93.4歳
現在抱えられている心臓病や、血圧、糖尿病などの病気により差はありますが、手術を考えるには、まずご自身の平均余命を考慮しておく必要があります。
そして次に、ご自身の現在おかれている状況を考えます。それは、一人暮しかあるいは家族と暮らしているか、または買い物から、料理など食事の面倒を見てくれる方が同居または近くに住んでいるか、そして居室、風呂、トイレ、階段に手すりがついているかなどの住居環境です。こうした身の回りのことをある程度できる状態が、膝の症状が悪化しても維持できるかによっても手術を受ける時期が変わってきます。たとえば、自宅がバリアフリーで電動車椅子により一般道路から自宅内まで移動できて、さらに室内も車椅子で移動できるような方は、できる限り手術を先延ばしにしてもいいかもしれません。またそうした方でも、周りの方に気を使って、迷惑をかけたくないと思っている方は、早めに手術をしたほうがいい場合があります。さらにエレベーターがない建物に住んでいて、毎日何十段もの階段の上り下りをしなければならない方は、早めに対処を考えておく必要があります。
変形性膝関節症は関節軟骨の老化によるものや、また骨折、靱帯損傷、半月板損傷などの外傷を契機に徐々に関節軟骨がすり減っていくものがあります。このすり減りにより関節が不安定になったり、または動きが悪くなって、正座ができなくなったり、ピンと伸ばせなくなったりします。こうして徐々に関節の機能が低下していきます。
骨挫傷といって、骨の内部が損傷されてることで急激に痛みが増強し、歩行困難となる場合があります。こうした方は、これまでの日常生活が急に奪われることから、手術を受け入れる方が多いです。しかし、不自由ながらもなんとか生活ができていて、気がついたら80代後半になっているような方は、手術の機会を逃す可能性が出てきます。これは、高齢になるにつれ心臓や内臓の病気などにより、手術の危険性が増してくるためです。こうして90を過ぎると、危険性のほうがメリットよりも増してくるため、積極的な治療は行われなくなっていきます。
このようなことから、当院では患者さんの膝の状態とおかれている状況を踏まえ、関節機能を維持しながら手術の機会を逃さないように、サポートしていきたいと考えております。